新リース会計基準の全てがわかる!変更点から仕訳例まで完全ガイド

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2026年度からの適用が予定されている「新リース会計基準」について、何がどう変わるのか、実務で何をすべきかお悩みではありませんか?本記事では、新リース会計基準の基本概要から旧基準との変更点、具体的な仕訳例、財務諸表への影響、そして導入に向けた準備まで、経理担当者が知りたい情報を網羅的に解説します。結論として、新基準の最大のポイントは、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースを含め、原則すべてのリース取引を資産・負債として計上する「使用権モデル」が導入される点です。この記事を最後まで読めば、新基準が自社に与えるインパクトを正確に把握し、スムーズな移行を実現するための具体的なステップを理解できます。

目次

新リース会計基準とは?まずは基本をわかりやすく解説

「新リース会計基準」とは、これまでオフバランス処理が認められていたリース取引の多くを貸借対照表(B/S)に資産・負債として計上(オンバランス化)することを求める、新しい会計ルールです。企業会計基準委員会(ASBJ)が開発を進めており、国際的な会計基準であるIFRS第16号「リース」との整合性を図ることを大きな目的としています。この変更は、企業の財務諸表の見え方に大きな影響を与えるため、経理担当者だけでなく、経営層や関連部署の担当者もその基本を理解しておくことが不可欠です。まずは、なぜ基準が改正されるのか、その背景と重要なポイントから見ていきましょう。

なぜリース会計基準は改正されたのか その背景と目的

リース会計基準が大きく改正される背景には、従来の会計処理が抱えていた問題点がありました。特に、貸借対照表に計上されない「オペレーティング・リース」の存在が、投資家など財務諸表の利用者にとって、企業の財政状態を正確に把握する上での課題とされていました。

新リース会計基準は、これらの課題を解決し、より透明性の高い財務情報を提供するために導入されます。その背景と目的を整理すると、以下のようになります。

旧リース会計基準が抱えていた課題新リース会計基準が目指す目的
財務諸表の透明性多くのリース契約がオフバランス(B/Sに計上されない)であったため、企業が抱える実質的な負債が見えにくかった。リース取引の実態を貸借対照表に正確に反映させ、財務の透明性を高める。
企業間の比較可能性資産の調達方法(自己資金での購入か、リースか)によって財務指標が大きく異なり、企業間の比較が困難だった。資産の調達方法による会計処理の差異をなくし、企業間の財務諸表の比較可能性を向上させる。
国際的な整合性IFRS(国際財務報告基準)や米国会計基準では既にオンバランス化が先行しており、日本の基準との間に大きな差異(デット・エクイティ・スワップ)が生じていた。国際的な会計基準とのコンバージェンス(収斂)を図り、グローバルな資本市場における日本企業の信頼性を確保する。

このように、新基準は投資家が企業の財政状態をより正確に評価できるようにし、グローバルな基準に合わせることを主な目的としています。

新基準のポイントは「使用権モデル」の導入

新リース会計基準を理解する上で最も重要なキーワードが「使用権モデル」です。これは、新しい会計処理の根幹をなす考え方です。

使用権モデルとは、借手がリース契約によって得られる「特定された資産を一定期間使用する権利」を『使用権資産』という資産として、将来のリース料支払義務を『リース負債』という負債として、それぞれ貸借対照表に計上する会計処理モデルのことを指します。

これまでは、リース契約を「資産のレンタル」と捉え、毎月の支払いを費用として処理するケース(オペレーティング・リース)が多くありました。しかし、使用権モデルでは、リース契約を「資産を使用する権利と、その対価の支払義務の交換取引」と捉えます。この考え方の転換により、これまでオフバランスだったリース契約も、原則としてすべて貸借対照表に計上されることになるのです。これが、新基準における最大の変更点と言えます。

IFRS第16号との関連性と日本の公開草案

日本の新リース会計基準は、単独で開発されているわけではなく、国際財務報告基準(IFRS)の一つである「IFRS第16号『リース』」を基礎としています。これは、グローバルに事業を展開する企業が増加する中で、各国の会計基準を統一・調和させていく「コンバージェンス」という世界的な潮流に沿った動きです。

日本の会計基準を開発する企業会計基準委員会(ASBJ)は、このIFRS第16号の基本的な考え方を踏襲しつつ、日本の実務環境に合わせた調整を加えた「企業会計基準公開草案第73号『リースに関する会計基準(案)』」などを公表し、意見を募集してきました。

この公開草案は、最終決定版ではありませんが、今後の新リース会計基準の骨格となるものです。主なポイントは以下の通りです。

  • 原則としてIFRS第16号の考え方を採用し、借手は「使用権モデル」を適用する。
  • 貸手の会計処理は、現行の会計基準(ファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類)を基本的に維持する。
  • 日本の実務への配慮から、IFRS第16号にはない簡便的な取扱いなどが盛り込まれる可能性がある。

このように、日本の新リース会計基準は、IFRS第16号とのコンバージェンスを基本としつつ、国内の実情も考慮して策定が進められているという点を押さえておくことが重要です。

【いつから適用?】新リース会計基準の適用時期と対象範囲

新リース会計基準の適用時期と対象範囲 ASBJ 公開草案に基づく:早期適用と強制適用、対象範囲・識別ポイント 2024/4/1 2025/4/1 2026/4/1 2027/3期 早期適用 2024/4/1〜(任意) 強制適用 2026/4/1〜 例:3月決算 早期=2025年3月期/強制=2027年3月期 対象となる企業(原則) 上場企業 会社法上の大会社 会計監査義務のある企業(金融商品取引法・会社法) 中小企業への適用 原則、直ちに強制適用なし ただし、以下で適用要請の可能性 ・親会社が上場で連結対象 ・融資条件や取引先の要請 リース契約の識別(主な要件) 契約に「識別された資産」の使用権が定められていること 契約期間を通じ、経済的便益のほぼ全てを享受し、使用を指図する権利を有すること 例:特定データセンターでのサーバー専用利用、特定倉庫スペースの独占利用 等 → 実質的に資産の使用権を支配していればオンバランスの対象

企業の経理担当者にとって、新しい会計基準が「いつから」適用されるのかは、実務上の準備を進める上で最も重要な情報の一つです。ここでは、日本の新リース会計基準(企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した公開草案「リースに関する会計基準(案)」に基づく)の適用開始時期と、その対象となる企業の範囲について詳しく解説します。

新リース会計基準の適用開始日

日本の新リース会計基準は、国際的な会計基準であるIFRS第16号「リース」との整合性を図る目的で開発が進められており、その適用時期は明確に示される見込みです。現時点での公開草案によると、適用開始日は以下の通りです。

適用区分適用開始時期
原則適用(強制適用)2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から
早期適用2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用可能

つまり、3月決算の企業の場合、2027年3月期から強制適用となりますが、準備が整った企業は2025年3月期から任意で早期適用することも可能です。自社の対応スケジュールを策定する上で、この原則適用と早期適用の時期を正確に把握しておくことが不可欠です。

対象となる企業とリース契約の識別

新リース会計基準は、原則としてすべての上場企業や会社法上の大会社など、金融商品取引法や会社法の規定により会計監査を受ける義務のある企業が対象となります。

また、新基準を適用する上で最も重要なのが、「何がリース契約に該当するのか」を正しく識別することです。新基準では、契約の実質に着目してリースを識別するため、これまで費用処理(オフバランス)していた契約が、新たに資産・負債の計上(オンバランス)の対象となる可能性があります。

リース契約と判断されるための主な要件は、以下の2つを満たす契約です。

  • 契約において、特定の「識別された資産」の使用権が定められていること
  • 契約期間にわたり、その資産の使用により生じる経済的便益のほとんどすべてを享受し、その資産の使用を指図する権利(実質的な支配権)を有していること

この定義により、例えば特定のデータセンターにおけるサーバーの専用利用契約や、特定の倉庫スペースの独占的な利用契約なども、実質的に資産の使用権を支配していると判断されれば、リース契約として会計処理が必要になります。これまでの「リース」という名称にとらわれず、契約内容を精査することが求められます。

中小企業への適用について

上場企業などへの適用が先行する一方で、多くの中小企業の皆様は自社への影響を懸念されていることでしょう。

結論から言うと、会計監査の設置義務がない多くの中小企業については、直ちに新リース会計基準が強制適用されるわけではありません。中小企業の会計処理の拠り所となる「中小企業の会計に関する指針」の改訂については、今後の動向を注視する必要がありますが、当面は従来の会計処理を継続できると考えられます。

ただし、注意点もあります。非上場の中小企業であっても、親会社が上場企業で連結決算の対象である場合や、金融機関からの融資条件、あるいは取引先との関係で新基準に準拠した財務諸表の提出を求められるケースも想定されます。自社が直接の強制適用対象でなくても、ステークホルダーからの要請によって対応が必要になる可能性を念頭に置いておくことが賢明です。

新リース会計基準の変更点を旧基準と比較して徹底解説

新リース会計基準の変更点(旧基準との比較) 旧基準(借手) 区分: ファイナンス・リース / オペレーティング・リース ファイナンス・リース オンバランス(B/Sに資産・負債) P/L: 減価償却 + 支払利息 オペレーティング・リース オフバランス(B/Sに影響なし) P/L: 支払リース料(費用) 課題: 財政状態の把握が困難になりやすい 新基準(借手) 原則: 区分を廃止 → すべてオンバランス(使用権モデル) 使用権資産 (資産) リース負債 (負債) P/L: 減価償却費 + 利息 例外(簡便適用) 短期(<=12ヶ月)・少額(<=5,000 USD目安)はオフバランス可 オンバランス化 支払リース料を費用計上(オフバランス) 貸手の会計処理 実質的な変更なし。従来通りの区分(ファイナンス/オペレーティング)を継続

2026年4月1日以後開始する事業年度からの適用が提案されている新リース会計基準。その最も重要なポイントは、これまでの会計処理との違いを正確に理解することです。本章では、旧基準と新基準を比較しながら、変更点を一つひとつ丁寧に、そして徹底的に解説していきます。

最大の変更点 すべてのリース取引をオンバランス化

新しいリース会計基準における最大の変更点は、借手側の会計処理において、これまでオフバランス処理が認められていたオペレーティング・リースも、原則としてすべて貸借対照表(B/S)に資産・負債として計上する「オンバランス化」が求められる点です。なぜこれが大きな変更なのかを理解するために、まずは旧基準の考え方から振り返ってみましょう。

これまでのファイナンス・リースとオペレーティング・リースの違い

現行のリース会計基準では、借手はリース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2つに分類し、それぞれ異なる会計処理を行っています。

ファイナンス・リースは、実質的にリース資産を分割払いで購入したのと同じ経済的実態を持つ取引とみなされ、資産(リース資産)と負債(リース債務)を貸借対照表に計上します(オンバランス処理)。

一方、オペレーティング・リースは、単なる資産の賃貸借取引とみなされ、支払ったリース料を費用として計上するのみで、貸借対照表には資産・負債が計上されません(オフバランス処理)。このため、企業の財政状態を正確に把握しにくいという課題が指摘されていました。

両者の違いをまとめると、以下のようになります。

項目ファイナンス・リースオペレーティング・リース
取引の性質資産の購入(金融取引)に近い資産の賃貸借に近い
会計処理オンバランス処理オフバランス処理
B/Sへの影響リース資産とリース債務を計上影響なし
P/Lへの影響減価償却費と支払利息を計上支払リース料を費用計上

新基準では借手のリース区分が原則廃止に

新リース会計基準では、投資家など財務諸表の利用者に対して、より透明性の高い情報を提供することを目的として、借手におけるファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分が原則として廃止されます。

これにより、これまでオペレーティング・リースとしてオフバランス処理されてきた契約も、すべて「使用権資産」という資産と「リース負債」という負債を貸借対照表に計上することになります。これが「すべてのリースをオンバランス化する」ということです。この会計処理モデルを「使用権モデル」と呼びます。

この変更により、特にオペレーティング・リースを多用してきた企業(例えば、航空会社や小売業など)は、貸借対照表上の資産と負債が大幅に増加する可能性があります。

例外的にオフバランスが認められる2つのケース

「原則」すべてのリースがオンバランス化される一方で、実務上の負担を考慮し、重要性の低いリース取引については、例外的な取扱い(簡便的な取扱い)が認められています。この例外規定に該当する場合、新基準適用後も引き続き、支払リース料を費用計上するだけのオフバランス処理が可能です。

短期リースの特例

短期リースの特例は、リース開始日においてリース期間が12ヶ月以内であるリースに適用できます。例えば、3ヶ月間だけ借りるオフィス機器や、イベント用に半年間だけレンタルする機材などが該当します。

ただし、購入オプションが付いているリースで、その行使が合理的に確実であると判断される場合は、たとえ当初のリース期間が12ヶ月以内であっても、この特例を適用することはできませんので注意が必要です。

少額リースの特例

少額リースの特例は、リース対象となる資産そのものの価値が低い場合に適用できます。日本の公開草案では具体的な金額基準は示されていませんが、先行する国際的な会計基準(IFRS第16号)では、原資産が新品であった場合の価額が5,000米ドル以下であるリースが目安とされています。

この特例の対象となる資産の例としては、PC、タブレット、事務用電話機、小規模なオフィス家具などが挙げられます。この判断は、リース契約ごとではなく、リースされている個々の資産単位で行うことができます。

企業は、これらの特例を会計方針として採用するかどうかを選択することができます。

貸手側の会計処理はどう変わるのか

ここまで借手側の変更点を中心に解説してきましたが、資産を貸す側(貸手)の会計処理はどうなるのでしょうか。

結論から言うと、新リース会計基準において、貸手側の会計処理は現行の基準から実質的な変更はありません

貸手はこれまでと同様に、リース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類し、それぞれの区分に応じた会計処理を継続することになります。これは、現行の貸手に関する会計処理が、投資家に対して有用な情報を提供していると評価されているためです。

したがって、今回のリース会計基準の改正は、主に「借手」側の企業に大きな影響を与えるものと理解しておきましょう。

【仕訳例つき】新リース会計基準の具体的な会計処理

新リース会計基準の概要を理解したところで、ここからは最も重要となる具体的な会計処理について、仕訳例を交えながら解説します。特に借手側の会計処理は大きく変更されるため、ステップごとに丁寧に見ていきましょう。原則的な処理と、実務上の負担を軽減する簡便的な取扱いの両方を理解することが重要です。

借手側の会計処理の流れをステップで解説

新リース会計基準における借手の会計処理は、原則として「使用権モデル」に基づいて行われます。これは、リース契約によって得られる「資産を使用する権利」を「使用権資産」として資産計上し、将来のリース料支払義務を「リース負債」として負債計上する考え方です。ここでは、リース開始日から決算時までの一連の流れを2つのステップに分けて解説します。

ステップ1 リース開始日の仕訳 使用権資産とリース負債の計上

リース期間が開始する日(リース開始日)に、借手は貸借対照表(B/S)に資産と負債を計上します。これが「オンバランス化」の具体的な処理です。

計上する金額は、将来支払うリース料総額を、リースの借手が追加借入をしたと仮定した場合の利率(追加借入利子率)などで割り引いた「現在価値」で算定します。そして、算定したリース負債の額に、リース契約締結にかかった付随費用などを加算した金額を、使用権資産として計上するのが基本です。

【設例】

  • リース期間:5年
  • 年間リース料:1,000,000円(後払い)
  • 割引率:3%
  • リース料総額の現在価値:4,580,000円
  • 付随費用:なし

この場合、リース開始日には以下の仕訳を行います。

勘定科目借方貸方
使用権資産4,580,000
リース負債4,580,000
摘要リース契約開始に伴う使用権資産及びリース負債の計上

この仕訳により、これまでオフバランスだったオペレーティング・リースも、貸借対照表に資産と負債が同額計上されることになります。

ステップ2 決算時の仕訳 減価償却費と支払利息の計上

リース期間中は、毎期末の決算時に2つの処理が必要です。1つは「使用権資産の減価償却」、もう1つは「リース負債に係る支払利息の計上」です。

1. 使用権資産の減価償却
計上した使用権資産は、固定資産と同様に減価償却を行います。償却期間は原則としてリース期間となり、定額法などの合理的な方法で費用配分します。

2. 支払利息の計上とリース負債の返済
リース料の支払いには、元本部分の返済と利息部分の支払いが含まれていると考えます。そのため、決算時にはリース負債の期末残高に割引率を乗じて支払利息を計算し、費用として計上します。実際にリース料を支払った際は、その金額から支払利息を差し引いた額だけリース負債が減少します。

【設例】ステップ1の続き(1年目の決算およびリース料支払)

  • 減価償却費:4,580,000円 ÷ 5年 = 916,000円(定額法)
  • 支払利息(1年目):4,580,000円 × 3% = 137,400円
  • リース負債の返済額:1,000,000円(年間リース料) – 137,400円(支払利息) = 862,600円

まず、決算整理仕訳として減価償却費と支払利息を計上します。

勘定科目借方貸方
減価償却費916,000
使用権資産減価償却累計額916,000
摘要使用権資産の減価償却費計上
支払利息137,400
リース負債137,400
摘要リース負債に係る支払利息の計上

次に、リース料1,000,000円を支払った際の仕訳です。

勘定科目借方貸方
リース負債1,000,000
現金預金1,000,000
摘要リース料の支払い

このように、新基準では従来のオペレーティング・リースのようにリース料をそのまま費用計上するのではなく、減価償却費と支払利息という2つの費用に分けて計上する点が大きな特徴です。

簡便的な取扱いを選択した場合の会計処理

原則的な会計処理は、特に多数のリース契約を抱える企業にとって実務的な負担が大きくなる可能性があります。そのため、一定の要件のもとで簡便的な取扱いを選択することが認められる見込みです。

例えば、日本の公開草案では、以下のような簡便法が提案されています。

  • 利息の取扱い:リース負債の計算において、利息法を適用せず、利息相当額をリース期間にわたり定額で配分する方法。
  • リース料総額による処理:重要性が乏しいリース契約について、現在価値に割り引かずにリース料総額で資産・負債を計上する方法。

ここでは、利息相当額を定額配分する方法の仕訳例を見てみましょう。

【設例】

  • リース期間:5年
  • 年間リース料:1,000,000円
  • リース料総額:5,000,000円
  • 現在価値:4,580,000円
  • 利息相当額合計:5,000,000円 – 4,580,000円 = 420,000円
  • 1年あたりの利息相当額:420,000円 ÷ 5年 = 84,000円

この場合、決算時に計上する支払利息が毎年84,000円で一定になります。

勘定科目借方貸方
減価償却費916,000
使用権資産減価償却累計額916,000
支払利息84,000
リース負債84,000

簡便法を用いることで、毎期の利息計算が簡略化され、経理業務の負担を軽減できるメリットがあります。ただし、どの簡便法を選択できるかは企業の状況や会計方針によるため、専門家と相談の上、慎重に決定する必要があります。

新リース会計基準が企業に与える影響とは

新リース会計基準が企業に与える影響 B/Sへの影響:資産と負債の増加 使用権資産 リース負債 既存のB/S項目 資産 負債+純資産 資産 負債+純資産 使用権資産 リース負債 旧基準 新基準 注記のみ → オンバランス化 P/Lへの影響:費用の前倒し 新基準:減価償却費+支払利息(合計) 旧基準:定額の支払リース料 1 2 3 4 5 期間 初期に大きく 後半に小さく 経営指標へのインパクト 自己資本比率 ↓ 低下 総資産が増加し、分母が大きくなるため 負債比率(D/E) ↑ 上昇 リース負債の計上で分子が増加 ROA(総資産利益率) ↓ 低下 総資産の拡大で分母が増加 EBITDA ↑ 増加 支払利息が営業外へ、営業利益が増加 総資産回転率 ↓ 低下 総資産の増加で回転率が低下 適用時に特に注意すべき点 ! 財務制限条項(コベナンツ) オンバランス化で自己資本比率・D/Eが変動し、 条項抵触のリスク。事前に金融機関と 指標の計算方法を協議・合意しておく。 i ステークホルダーへの説明責任 見た目の指標悪化は会計表示の変更による旨を明示。 決算短信・有報・株主総会で丁寧に説明し、 リース vs 購入の社内評価基準も見直す。 対象業界例:小売・飲食・運輸・航空など、オペレーティング・リース活用度が高い企業は影響大

新リース会計基準の導入は、単なる会計処理の変更にとどまりません。これまで費用として処理されてきたオペレーティング・リースが貸借対照表(B/S)に計上される「オンバランス化」により、企業の財務諸表や経営指標に大きな影響を及ぼします。ここでは、具体的な影響をB/S、P/L、経営指標の3つの側面から詳しく解説します。

貸借対照表(B/S)への影響 資産と負債の増加

新リース会計基準における最も大きな影響は、貸借対照表(B/S)に現れます。これまで注記情報として開示するのみであったオペレーティング・リースが、資産と負債として計上されるためです。

具体的には、リース契約の開始日に、将来支払うリース料総額の現在価値を算出し、同額を「使用権資産」として資産の部に、「リース負債」として負債の部に計上します。これにより、企業の総資産と総負債がともに増加し、B/Sの規模が拡大することになります。

特に、店舗やオフィス、工場、航空機、車両など、事業運営のために多くの不動産や設備をオペレーティング・リースで調達している小売業、飲食業、運輸業、航空業界などは、この影響を大きく受けることになります。これまでB/Sに現れていなかった「隠れた負債」が可視化されることで、企業の財政状態がより実態に即して表示されるようになります。

損益計算書(P/L)への影響 費用の前倒し計上

損益計算書(P/L)においても、費用の計上方法と構成が大きく変わります。

旧基準のオペレーティング・リースでは、支払リース料をリース期間にわたって定額で費用(主に販売費及び一般管理費)として計上していました。しかし、新基準では費用が以下の2つに分解されます。

  • 使用権資産の減価償却費(原則として定額法で計上)
  • リース負債に係る支払利息(リース負債の残高に応じて計上)

支払利息は、利息が乗じられる元本(リース負債)が返済とともに減少していくため、リース期間の初期に多く計上され、期間の経過とともに減少していきます。一方で、減価償却費は定額法の場合、毎期一定額です。この結果、両者を合計した費用総額はリース期間の初期に大きく、後半になるにつれて小さくなる「費用の前倒し計上」という特徴があります。

また、これまで「支払リース料」として営業費用の区分に計上されていたものが、「減価償却費(営業費用)」と「支払利息(営業外費用)」に分かれるため、営業利益やEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)の金額も変動することになります。

経営指標へのインパクトと注意すべき点

B/SとP/Lの表示が変わることで、企業の財務状況を評価するための各種経営指標にも大きなインパクトを与えます。これは、企業の経営実態そのものが変化したわけではないにもかかわらず、数値上の見え方が変わるため、特に注意が必要です。

以下に、新リース会計基準の適用によって影響を受ける主要な経営指標をまとめました。

指標の種類経営指標変動主な理由
安全性自己資本比率低下分母である総資産が増加するため。
安全性負債比率(D/Eレシオ)上昇分子である負債が増加するため。
収益性総資産利益率(ROA)低下分母である総資産が大きく増加するため。
収益性EBITDA増加支払リース料が減価償却費と支払利息(営業外費用)に分解され、営業利益が押し上げられるため。
効率性総資産回転率低下分母である総資産が増加するため。

これらの指標変動に関して、特に以下の2点に留意する必要があります。

  1. 財務制限条項(コベナンツ)への影響
    金融機関からの借入契約には、自己資本比率や負債比率など、特定の財務指標を一定水準以上に維持することを定めた財務制限条項(コベナンツ)が付されている場合があります。新基準の適用により、意図せずこれらの条項に抵触してしまうリスクがあるため、事前に金融機関と協議し、指標の計算方法について合意しておくことが極めて重要です。
  2. ステークホルダーへの説明責任
    株主や投資家などのステークホルダーは、これらの経営指標を基に企業価値を評価します。財務指標が悪化したように見えることで、誤った評価を受けないよう、決算短信や有価証券報告書、株主総会などの場で、会計基準の変更による影響であることを丁寧に説明する責任があります。また、設備投資の意思決定においても、リースと購入の経済性比較に影響を与える可能性があるため、社内での評価基準の見直しも必要となるでしょう。

新リース会計基準の導入に向けた実務対応と準備

新リース会計基準への対応は、単に経理部門の会計処理が変更されるだけではありません。社内に存在する膨大なリース契約を洗い出し、新たな計算ロジックをシステムに組み込み、関連部署を巻き込んだ業務フローを再構築する必要があります。まさに全社を挙げた一大プロジェクトであり、計画的かつ早期の準備が成功の鍵を握ります。準備を怠ると、決算作業の遅延や財務報告の誤りといった重大な事態を招きかねません。ここでは、新基準の導入に向けて企業が具体的に何をすべきか、3つのステップに分けて解説します。

社内のリース契約の網羅的な把握

新基準対応の第一歩は、対象となるリース契約を全社的に、そして網羅的に把握することです。これまでの会計処理では費用計上(オフバランス)されていたオペレーティング・リースも原則として資産・負債計上の対象となるため、「リース」という名称の契約書だけでなく、賃貸借契約やレンタル契約、サービス提供契約といった契約の中に「リース」の定義に該当するものがないか、実質で判断する必要があります。

具体的には、各事業部門や管理部門へのヒアリング、賃借料や支払手数料といった勘定科目の内訳調査などを通じて、潜在的なリース契約を洗い出す作業が不可欠です。その上で、特定された契約について、新基準で求められる情報を整理・管理するための一覧(リース管理台帳)を作成します。

管理項目具体的な確認ポイント
契約の識別契約に「特定された資産」が含まれているか。その資産の使用を「指図する権利」を有しているか。
リース期間解約不能期間に加え、借手が延長オプションまたは購入オプションを行使することが合理的に確実かどうかも含めて決定します。
リース料固定リース料、変動リース料、インデックスやレートに応じて変動するリース料、残価保証額、購入オプションの行使価額などを正確に把握します。
割引率原則として、貸手の計算に含められている利率(入手が困難な場合が多い)を使用します。入手できない場合は、企業の追加借入利子率を使用します。
資産情報対象となる資産の種類、数量、契約開始日、設置場所などの基本情報を整理します。

会計システムの改修と業務フローの見直し

把握したリース契約情報を基に、使用権資産とリース負債を計算し、毎期の減価償却費と支払利息を計上していく必要があります。契約数が多岐にわたる場合、これらの計算や管理を表計算ソフトなど手作業で行うのは非現実的であり、会計システムの改修や専用のリース管理システムの導入が必須となります。特に、契約内容の変更や中途解約に伴うリース負債の再測定など、複雑な計算を正確かつ効率的に行うためには、システム対応が不可欠です。

システム対応と並行して、業務フローの見直しも急務です。例えば、以下のような点を明確にし、新たなルールを社内で周知徹底させる必要があります。

  • リース契約の情報を収集・管理する主管部署の決定
  • 新規契約時や契約更新時に、経理部門へ連携する際の手順とフォーマットの統一
  • 各事業部門がリース契約を締結する際の承認プロセスの見直し
  • 経理部門と事業部門、法務部門との連携体制の再構築

これらの体制を構築することで、情報の集約がスムーズになり、正確な会計処理と内部統制の強化につながります。

適用初年度における経過措置の選択

新リース会計基準の適用初年度には、企業の事務負担を軽減するための「経過措置」が認められています。どの経過措置を選択するかによって、適用初年度の財務諸表に与える影響や実務上の作業負荷が大きく異なるため、自社の状況を踏まえた慎重な判断が求められます。

経過措置は大きく分けて、過去の財務諸表を新基準に合わせて修正再表示する「原則法(遡及適用)」と、適用初年度の期首にのみ影響額を利益剰余金で調整する「簡便法(修正遡及アプローチ)」があります。多くの企業では、実務負担の観点から簡便法を選択することが想定されますが、その場合でも財務諸表の期間比較可能性が損なわれる点に留意が必要です。自社のリース契約の数、システム対応の進捗状況、そして投資家をはじめとするステークホルダーへの説明責任などを総合的に勘案し、会計監査人とも協議の上で最適な方法を選択することが重要です。

適用方法メリットデメリット・留意点
原則法(遡及適用)過去の財務諸表も新基準で修正されるため、期間比較可能性が完全に確保される。過去のすべてのリース契約について遡って再計算する必要があり、実務負担が極めて大きい。
簡便法(修正遡及アプローチ)適用開始日より前の財務諸表を修正する必要がなく、実務負担が大幅に軽減される。適用初年度の財務諸表と過年度の財務諸表との比較可能性が損なわれる。

まとめ

本記事では、新リース会計基準の概要から変更点、具体的な会計処理、企業への影響、そして実務対応までを網羅的に解説しました。新リース会計基準の最大のポイントは、国際的な会計基準であるIFRS第16号との整合性を図る目的で導入される「使用権モデル」です。これにより、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースを含む、原則すべてのリース契約が貸借対照表(B/S)に資産・負債として計上(オンバランス化)されることになります。

この変更は、企業の財務諸表に大きな影響を及ぼします。具体的には、総資産と負債が同時に増加し、自己資本比率などの経営指標が悪化する可能性があります。また、損益計算書(P/L)上では、費用が前倒しで計上される傾向になります。ただし、「短期リース」や「少額リース」といった例外的な取扱いも設けられています。

新基準の適用に向けて、企業は自社が結んでいるリース契約を網羅的に把握し、会計方針の決定、業務フローの見直し、会計システムの改修などを早期に検討・準備することが極めて重要です。本記事を参考に、新リース会計基準へのスムーズな移行準備を進めていきましょう。

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